おいしさの前に、私が整えているもの、無農薬かどうかより大切にしている基準

2026/01/29 ブログ
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「農法」よりも「おいしさと安心感」を大切にしたい理由

飲食店として、いま野菜を選ぶときに考えていること

最近は「無農薬」「有機栽培」「自然栽培」といった言葉を目にすることが本当に増えました。体に良さそう、環境に優しそう。そんなイメージを持つ方も多いと思いますし、実際に素晴らしい取り組みをされている生産者さんがいるのも事実です。

一方で、飲食店という立場で日々現場に立っていると、
「農法の名前」だけでは語りきれない現実もあると感じています。

私たちが大切にしているのは、特別な農法かどうかよりも、まず日本の基準をきちんと満たしていること。
そしてその中で、味や状態が本当に良い野菜を選ぶことです。
現在は、立川産の野菜を中心に、その時いちばん状態の良いものを見て仕入れています。

日本の野菜は、前提としてかなり厳しく管理されている

日本で流通している野菜は、残留農薬や安全性に関して非常に細かい基準が設けられています。登録されている農薬の種類や使い方、残留基準は厳しく管理されていて、市場に出回る時点でそれらをクリアしたものがほとんどです。

残留基準は、「毎日一生食べ続けても健康に影響が出ない量」をもとに設定されています。実際の食生活では、同じ野菜を極端な量で食べ続けることはあまりありません。そう考えると、日常の食事としては、過度に心配しすぎる必要はないレベルだと私は捉えています。

もちろんゼロリスクではありません。でも、リスクの大きさを冷静に見たとき、食べることそのものを怖がりすぎる状態は、本来の食の役割から少し離れてしまうように感じるのです。

農薬は「昔のイメージ」とはだいぶ違ってきている

「農薬」と聞くと、体に悪いもの、というイメージを持つ方も少なくないと思います。その背景には、昭和から平成中期にかけて使われていた、効き目が強く、環境への影響も大きかった時代の農薬があります。

当時は、とにかく収量を確保することが重要でした。食料不足を経験した時代でもあり、「しっかり効かせる」ことが優先されていたのです。その結果、今では使用が禁止されている農薬もありますし、環境への影響が問題視されたものもありました。

しかし、令和のいま、農薬の中身はかなり変わっています。

現在主流なのは、害虫や病原菌の特定の機能だけを狙うピンポイント型の農薬です。必要な量も昔に比べて少なく、自然界で分解されやすい設計のものが増えています。また、ドローンやGPS制御による精密散布などの技術も進み、必要な場所に必要な量だけを使う方向へと進化しています。

さらに、いまの農業は農薬だけに頼るのではなく、天敵昆虫の活用や病気に強い品種の開発など、さまざまな方法を組み合わせる「総合的病害虫管理」が広がっています。農薬はその中の一つの手段、という位置づけに変わりつつあります。

つまり、「農薬=昔と同じ危険なもの」という単純な図式では語れない時代になっているのです。

只、立川の農家さんすべてが、最新の農薬利用技術や精密な散布方法を取り入れているかというと、必ずしもそうとは限りません。
都市近郊の小規模な畑では、昔ながらのやり方を大切にしながら、
できる範囲で減農薬に取り組んでいる方も多くいます。
栽培方法は農家ごとにさまざまで、それぞれの考え方や環境に合わせた形が選ばれています。だからこそ私は、「農法の名前」だけで判断するのではなく、きちんと基準を満たしていることを前提に、
その日の野菜の状態を確かめながら仕入れを行っています。

食べることが「不安の時間」になっていないか

私たちが本当に気になっているのは、食べることそのものが不安の時間になってしまうことです。

「これは大丈夫だろうか」「あれは体に悪いのではないか」と考えすぎてしまうと、食事は本来の楽しみや安らぎから離れていきます。本来、食事は栄養を摂る時間であると同時に、気持ちをゆるめる時間でもあるはずです。

過度な不安や緊張は、体にとっても負担になります。どれだけ良い素材を使っていても、緊張しながら食べる時間が続けば、食事は「健康のためのもの」から「気を張るもの」へと変わってしまいます。

だからこそ私たちは、「特別な農法」に強く寄りかかるのではなく、「基準をきちんと満たしている」という社会の仕組みをまず信頼し、そのうえで味や状態の良いものを選ぶ、という姿勢を大切にしています。

料理は“目的”ではなく、“手段”のひとつ

ここで大事にしているのは、私は「料理人」というよりも、
「飲食店という場をつくる人間」だということです。

料理はもちろん大切です。でも、料理そのものがゴールではありません。
料理はあくまで、お客様にとって心地よい時間をつくるための“道具”であり“手段”のひとつだと考えています。

その料理をどう活かすかを決めるのは、人です。

食材の選び方にどんな考えがあるのか。なぜこの味付けなのか。
どういう気持ちでお皿を出しているのか。
そうした背景があってはじめて、料理は「ただの食べ物」ではなく、
時間や空間の一部になります。

そして飲食店の価値は、料理だけで決まるものではありません。

料理
サービス
空間

この三つがバランスよく揃ってはじめて、
「また来たい」と思ってもらえる体験になります。

どれか一つだけが突出していても、どこかが欠けていれば、
全体としての心地よさは生まれません。
私は、料理を磨きながらも、それをどう届けるか、
どんな空間で味わってもらうか、
そこまで含めて考えることが飲食店の役割だと思っています。

私たちなりの“ちょうどいい”立ち位置

特別な農法の名前に強く寄りかかるのではなく、日本の基準や農業技術の進歩を土台として信頼する。そのうえで、立川の畑で採れた野菜の中から、いちばん状態が良く、料理としておいしく活きるものを選ぶ。

それは、何かを軽く見ているわけでも、妥協しているわけでもありません。

過剰な不安に寄りすぎず、かといって無関心にもならない。食べる人が安心して、おいしく、気持ちよく過ごせる時間をつくるための、私たちなりのバランスの取り方です。

料理は手段。
それを活かすのは人。

そして、料理・サービス・空間、この三つを整えて提供することこそが、飲食店としての価値になる。

そんな考え方を土台に、これからも日々の一皿と、一つひとつの時間を積み重ねていきたいと思っています。