【ワインとジビエ】文化としてのマリアージュ、ヨーロッパと日本の視点から

2025/07/08 ブログ

ジビエとワイン。この組み合わせは、単に“肉と酒”の相性を語るものではなく、食文化と風土の融合を象徴する関係にあります。特にフランスやイタリアといったヨーロッパ諸国では、狩猟・熟成・料理・ワインという一連の流れが、地域文化として古くから根付いています。


■ ヨーロッパにおける「ジビエ×ワイン」は“生活の延長”

フランスでは秋になると「ジビエの季節」がやってきます。レストランや家庭の食卓に、鹿(シカ)、猪(イノシシ)、野兎(リエーブル)、山鳩(ピジョン・ラミエ)などが並び、それに寄り添うように地元のワインが登場します。

ブルゴーニュのピノ・ノワールは、鹿やウサギのような繊細で鉄分の多い肉と抜群の相性。ローヌのシラーは、野性味あふれる猪や鴨の煮込みとよく合います。熟成ワインの森の下草やなめし革のような香りは、ジビエの血や脂のニュアンスと見事に調和します。

この「地元で獲れる野生動物」と「地元で育つブドウ」の組み合わせは、偶然ではありません。長年の風土が育んだマリアージュであり、それを楽しむのが“文化”として機能しているのです。

また、食卓だけでなく、ワイン生産者や料理人が狩猟を趣味として持つケースも多く、獲って、仕留めて、料理し、ワインと合わせてふるまうという、自然と向き合う暮らしの一部としてジビエとワインは結びついています。


■ 日本における「ジビエ×ワイン」は“文化の創出段階”

一方、日本ではこうしたジビエとワインの文化は、まだ発展途上にあります。
そもそも日本では、ジビエ自体が“珍しい”ものと捉えられがちで、精肉と同列に考える人は多くありませんでした。また、ワインもつい最近まで「洋食に合わせる特別な酒」というイメージが強く、家庭に常備されるようになったのはここ10~20年の話です。

しかし近年、日本ワインの品質が飛躍的に向上し、同時にジビエ処理の衛生基準や流通も整ってきたことで、少しずつではありますが日本独自のマリアージュ文化が芽吹き始めています。

たとえば、山梨の甲州ワインと鴨のローストには、柑橘のニュアンスと鴨脂の甘みが絶妙に絡みます。長野や北海道のピノ・ノワールは鹿肉や猪肉との相性もよく、冷涼地ならではの酸と果実味がジビエを引き立てます。

また、ジビエ料理自体も進化を遂げており、ジビエバーガーやスパイスカレー、焼鳥風の串打ちスタイルなど、“和の食卓に馴染む”アレンジが増えています。これに日本ワインやどぶろく、クラフトサケを合わせるという、新たな提案も生まれつつあります。


■ 浸透度の差:文化の“深さ”と“広さ”

ヨーロッパのジビエ×ワイン文化は「生活と季節のリズム」に密着しており、深く、根を張った伝統として存在します。秋が来ればジビエを獲り、煮込み、ワインで祝う。それが“年中行事”であり、家族や地域のアイデンティティでもあります。

一方、日本では「プロによる再解釈」や「イベント的な消費」が先行し、まだ点と点をつなげている段階。地方ではジビエを日常的に食べる文化があるものの、それとワインとの結びつきはまだ希薄であり、都市部の一部飲食店に限られているのが現状です。

ただし、日本には豊かな山の恵みと四季があり、ジビエとの相性がよいワインや発酵酒も増えています。文化として深く根づくには時間がかかりますが、地域性や食の多様性を尊重しながら「日本流のジビエ×ワイン文化」を育てていく土壌は確かに広がっています。


最後に:“合わせる”ではなく“寄り添う”楽しみへ

ジビエとワインの組み合わせに正解はありません。
濃厚な赤ワインを合わせてもいいし、繊細な白やオレンジワインで香りを楽しんでもいい。大切なのは、料理が持つ物語に、飲み物が寄り添うこと。

それはヨーロッパでも日本でも変わらない、食の本質的な楽しみ方ではないでしょうか。
自然の恵みを味わい、風土を感じ、人と野生との距離を一度見つめ直す——。
そんな“マリアージュの向こう側”を、ジビエとワインは教えてくれるのです。